墓地・霊園の選び方

お墓は一度購入すると頻繁に買い替えたり引っ越ししたりすることはほとんどありません。私たちの身の回りにあるテレビやスマートフォン、大きな買い物としてはクルマや住宅などとは性質が違っています。

それだけに墓地選びは、お墓選びの中でも重要な問題で慎重に進める必要があります。

はじめに知っておいていただきたいのは、墓地や霊園は誰もが経営できるものではありません。私たち石材店のような営利法人は経営できません。

現在の日本の法律では、墓地の運営・経営ができるのは、県や市・町などの自治体、お寺などの宗教法人、財団法人などの公益法人に限られます。こういったところが運営・経営する墓地は、「公営墓地」「寺院墓地」「民営霊園」というように分類され、墓地の値段も規定も異なっています。

また、墓石の値段までが購入する墓地・霊園によって大きく変わってくるという事実もあります。

ということで、お墓づくりの最初の段階である「墓地選び」で失敗すると、

  • 思ったカタチのお墓が建てられない
  • 石材店を自由に選べない(よくあるトラブルです)
  • べらぼうに高い値段提示をされた

さまざまな理由で「お墓づくり」に影響を及ぼしますので注意が必要です。

さて、それぞれの墓地の特徴についてこの後にご説明させていただきますが、実際には個々の墓地・霊園ごとに規定・規約などが異なりますので、事前に詳しく調べておく必要があります。 この「事前に…」という部分ですが、“墓地・霊園を見学する前に”という意味です。特に「民営霊園」を見学する際にはとても重要なことです。理由は、後ほど詳しくご説明いたします。

公営墓地

公営墓地とは、県や市などの自治体が運営している墓地です。宗教、宗旨・宗派、国籍を問わず、お墓のカタチにも極めて制限が少なく、何よりも、墓石を購入する石材店を自由に選べるという点が最大の利点です。そして、墓地の値段(使用料)や管理費も比較的安く設定されているところがほとんどです。

ただ、公営墓地にも例外があり、大都市圏の一部や、地代の高いところに位置する公営墓地は自治体の運営とは思えないような高額な墓地代のところもあります。

墓地の管理についても、自治体がなくならない限り管理は永続的に続くという点では安心度が高いといえます。それだけに人気も高く、特に都市部の公営墓地では、ご遺骨のある人しか申し込みができなかったり、抽選になったりと、希望の墓地がなかなか手に入りにくい場合もあります。

私の個人的な意見ですが、立地にさほど問題がなければ、たとえ抽選であっても、申し込み資格があるならば、先ずは公営墓地を申し込まれることをお勧めいたします。最大の理由は前にも述べましたが、墓石選びで最も大切な「石材店選び」に関して制限がなく、自由に石材店を選べるからです。

ここまでの話だけなら、公営墓地は良いことばかりようですが、何もかもすべてが完璧なわけではありません。公営墓地は自治体運営のため、突き詰めれば私たちの税金で運営されています。したがって、最低必要不可欠の設備と管理体制での運営にならざるを得ません。

たとえば、霊園全体の美しさや、休憩室・法要施設の完備などは、民営霊園の方がはるかに充実しています。

墓地・霊園内の清掃についても、公営墓地の多くは共用部分の清掃・管理にとどまります。民営霊園やお寺の墓地の場合は、枯れたお花の撤去など、それぞれの墓所内までを管理の対象としているところもあります。その代わり、それなりの墓地代や管理費など、トータル的には公営墓地より費用は多くかかってきます。

【公営墓地の評価】総合評価:◎

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価 格例外を除き安価。
立 地それぞれの自治体により異なる。
宗 教宗教、宗旨・宗派、国籍不問。
墓 石お墓のカタチも自由に選べ、石材店も自由に選べる。
設 備必要最低限の設備は整っている。
管 理管理費で管理の永続性が保証。個々の墓所内は自身で管理。

みなし墓地

都市部の中心から離れた住宅地の一角や道路の脇とか、田んぼや畑の横とか、山のすそ野に多く見られる墓地で、実際には墓地の経営許可を受けていませんが、受けたものと“みなす”墓地のことを「みなし墓地」と言います。

墓地は、誰でもが勝手に造成してつくれるものではなく、自治体である県や市の許可がなければつくることはできません。また、墓地を経営することが認められているのは、自治体などの地方公共団体、財団法人などの公益法人、お寺などの宗教法人に限られています。このことは、昭和23年6月1日に施行された、「墓埋法」(墓地、埋葬等に関する法律)によって定められています。

しかし、この墓埋法が施行されるずっと以前から、すでに墓地として存在していたものを「みなし墓地」と言います。「みなし墓地」は地域によって「村墓地」「共同墓地」「自治会墓地」など、さまざまな名称で呼ばれており、墓地の規定や管理もまちまちです。

そもそも身近な墓地という性質上、墓地の管理などは墓所を構える人たちが自分自身で行わないといけないような墓地もたくさんあり、水道の設備すら無いところも少なくありません(家からポリタンクで水を運べる範囲がほとんどなのでしょう)。

そのため「みなし墓地」の申し込み資格に関しては、昔からその地域に住んでいる人だけに限定している所や、近隣の新興住宅地の住民も対象に含まれていたりと様々です。

大規模な募集があるところは少なく、空き区画を中心とした募集が行われているところがほとんどです。民営霊園のように、収益を得ることを目的とした墓地ではないため、墓地代は安く、ほとんどが公営墓地と同程度の金額で募集されています。墓石についてのカタチも特に制約がないことが多く、石材店も自由に選べる場合がほとんどですが、中には、自治会等が定めた指定の石材店でしか墓石の購入ができないところもあるので事前に確認が必要です。

「みなし墓地」のほとんどは、墓地全体の環境や設備・管理・サービスなどの面において、公営墓地や民営墓地と比較すると、劣ると言わざるを得ません。みなし墓地を求められる方の多くは「自宅からの距離」を最優先に考えてお探しておられる方がかなり数多くいらっしゃいます。

【みなし墓地の評価】総合評価:△(墓地によって様々です)

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価 格公営墓地と同様、安価な場合が多い。
立 地その人の住まいの場所による。
宗 教宗教、宗旨・宗派、不問の場合がほとんど。
墓 石お墓のカタチは自由だが、石材店は指定の場合がある。
設 備×墓地によってさまざまだが、設備に期待はできない。
管 理×まったく管理がされていない墓地も多数ある。

寺院墓地

お寺が所有、管理・運営している墓地です。宗教、信仰などによっても異なりますが、日本人にとって昔からある一般的なお墓のあり方です。

寺院墓地の多くは、市街地近くの利便性の高いところにあるため、空きがない場合が多いです。もし空きがあったとしてもそれなりの値段はします。

寺院墓地には常にご住職をはじめ、お寺関係者がいるため管理も行き届いているところが多く、法要の際だけでなく、日常的に安心して管理・供養をお任せすることができます。

しかし、お寺の墓地にお墓を構えるということは、そのお寺の檀家になることを意味しています。そのため必然的に宗旨・宗派は限定されます(中には例外もあり、宗旨・宗派不問のところもあります)。

寺院墓地は単なる墓所の管理ということだけではなく、お寺に日々の供養もお願いすることになるわけですから、それなりのお付き合いが生じてくるのは当然のことです。

檀家になるということは、自分一代限りの問題ではなく、子供、孫の代にわたり、お寺を支えていく会員となることなのですから、お寺の墓地をお考えになる際には必ず、そのお寺のご住職にお寺の行事やお付き合いの仕方などについて、事前に確認しておいてから決めることが大切です。

お墓のカタチについても一般の墓地のように、どんなお墓でも自由に建てても良いというわけにはいきません。当然ながら、お寺の境内にある墓地ということなので、その景観や宗教的観点に沿ったものに限定されることもあります。そしてお墓を建てる際の石材店に関しても、お寺という神聖な場所だけに、お施主が自由に選べるところは少なく、お寺が認めた御用達の石材店でなければ、墓地への出入りができない決まりになっているところがほとんどです。

【寺院墓地の評価】総合評価:◎~△(個々の考え方によって評価が異なる)

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価 格立地条件が良い分、値段も高い。
立 地人が来やすい場所にあることが多い。
宗 教×そのお寺の宗旨に限る場合が多数(例外あり)。
墓 石一般的には奇抜な墓石はNG。石材店はお寺御用達に限る場合が多い。
設 備お寺なので、法要も可能。
管 理日々の管理と供養についての安心度は極めて高い。

民営霊園

民営霊園、民間墓地などと呼ばれる郊外型大規模霊園です。電車やバス、新聞の折り込みチラシなどで見かける霊園の広告の大半が民営墓地に分類されるところです。

例えば、「神戸○○メモリアル」「兵庫△△大霊園」「□□寺大霊苑」などの名称で、チラシ等の広告を通じて、都市部を中心に大々的に販売されています。目にされたことがあると思います。

経営の主体は営利を目的としない、宗教法人や財団法人などの公益法人です。また、宗教法人が運営・管理していても、宗教、宗旨・宗派を問わないのが一般的です。

霊園内での業務など、実質的な運営・管理等は、指定の石材店や外部委託会社、石材店等の集まりで組織された「○○霊園販売協力会」などが行っているケースが大半です。

四季折々の美しい植栽を配し、ゆっくりと休める休憩室を備えた管理棟や最寄駅からの送迎バスの運行、法要施設の完備など、施設や清掃・管理、サービス面などの部分では、これまでご紹介してきた各墓地の中では最も充実しています。

その分、「公営墓地」や「みなし墓地」に比べると、墓地代や管理費の金額も高く設定されている場合が多いようです。

このように墓地代等の金額については、プールやスパ、フィットネスジムなど、設備が充実しているマンションの一戸当たりの価格が高いのと同じ理屈です。

墓地の申し込みに関しても、ご遺骨の有無や居住地等の制限がなく、区画面積や場所も先着順・無抽選にて自由に選べるところがほとんどです。墓石のカタチやデザインについても、制約があまりなく、お好みの墓石を建てることができ、自由度の高いのが民営霊園の特徴です。

簡単にまとめますと、

  • 宗教、宗旨・宗派、国籍不問
  • 壇家にならなくてよい
  • 抽選がなく好きな区画がすぐに買える

ここまでは良いことばかりです。しかし、すべてが良いことばかりではありません。

民営霊園の場合、仏教系の宗教法人が経営している場合が多いため、事前に、本当に「宗教、宗旨・宗派不問」なのか確認することが大切です。実際には「それ以前の宗旨・宗派不問」という意味合いであり、墓地購入後はその霊園の宗教法人の寺院僧侶にしか納骨法要等の立ち会いを頼めないというケースもあります。申し込み以前に、墓地の使用規定をきちんと確認することが不可欠です。

最低限、次の2つは墓地を申し込む前に、確認しておく必要があります。

  • ご自身の家の宗教、宗旨・宗派に沿った儀式で納骨ができるのか?
  • 菩提寺の僧侶の同行供養を許可してもらえるのか?

施主様がキリスト教徒とわかっていて墓地を売ってくれたはずなのに、納骨式の直前になって「祭祀をキリスト教式ではしてくれるな!」等のトラブルが起きている民営霊園の実例もあるようです。こういうトラブルは困りますね。

そして、民営霊園を購入する場合に、知っておく必要があるのは、「指定石材店制度」という墓石業界独自の制度についてです。

簡単にご説明しますと「指定石材店制度」とは、民営霊園に墓地を購入し、お墓を建てる場合には、ほとんどの場合、霊園が定めた指定の石材店以外では建てられません

これは、墓石業界だけに限ったことではなく、住宅でも宅地ごとに、「○○ハウス」や「△△住建」指定等の建築条件付きの宅地も数多くあります。ディズニーランドやユニバーサルスタジオなどは、弁当の持ち込みは禁止で、「その施設内のレストランを利用しないといけない」などの決まりがあります。

消費者は決められた範囲の中から、自分の好みに合ったハウスメーカーやレストランを選ぶのです。

しかし、これらの異業種と民営霊園における「指定石材店制度」とはシステムの違いがあります。

それは、ハウスメーカーでもそれぞれの会社によって得意分野が異なり、レストランでも「和」「洋」「中」など、さまざまなジャンルがあります。

当然、石材店にもそれぞれ得意分野があり、伝統的な和型墓石を得意としているところもあれば、デザイン墓石を得意としているところと様々です。

問題は消費者がハウスメーカーやレストランのように自由に石材店を選ぶことができないというところ。これは消費者側からすれば、この制度の最大の問題でしょう。

例えばデザイン墓石を選びたいと考えていても、指定されている石材店は「和型墓石」を得意としていて、デザイン墓石の実績がほとんどない。こんな場合でも、指定された石材店でお墓を建てるしか仕方ありません。

このように、民営の霊園にて墓地を購入する際には慎重に検討することが重要です。

【民営霊園の評価】総合評価:△~×(指定石材店制度の内容に問題がある)

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価 格環境や良く、設備が整っている分、公営墓地に比べて値段は高い。
立 地街中から離れた郊外地にあることが多い。
宗 教一般的には宗教、宗旨・宗派問わずだが例外あり。
墓 石×指定石材店制度があるため、石材店は自由に選べず値段も高い。
設 備休憩室完備の管理棟や法要施設など設備は充実。
管 理管理は若干高めだが、清掃や送迎サービスなど安心の管理体制。

簡単にまとめてみますと、次の要点を抑えておくことが大切です。

  • 公営墓地は経営破綻しない
  • 民営霊園は経営破綻すると運営が止まる
  • 民営霊園は差し押さえになるとお墓を引っ越しせざるを得ないケースもある
  • ほとんどの民営霊園には「指定石材店制度」がある
  • みなし墓地も「指定石材店制度」がある場合がある
  • みなし墓地の場合は墓地掃除の当番制など地域の約束事があるケースが多い
  • 寺院墓地は檀家という制度と特性を理解しておく必要がある

墓地や霊園が自宅から近いに越したことはありません。ただ、人によっては家から車で30分の距離にある墓地でも遠いと言われる方もいらっしゃいます。こうした方々のご希望は、自宅から徒歩圏内であるとか、電車の駅から歩いて行ける場所にある墓地ということです。

仕事場への通勤でも、家から30分位は当たり前だとは思うのですが、なぜか墓地に関しては、環境や設備より距離を優先に選ばれる傾向にあります。

お墓参りに行かれる回数は人によって異なりますが、よく行かれる人で月1回、一般的にはお盆、お彼岸、年末年始、命日など、年に4~5回程度の墓参回数の人が多いのではないでしょうか。「遠い・近い」という感覚には個人差がありますが、車で30分、電車・バスで1時間程度ならば、都市部では便利の良い方だと私は思います。墓地や霊園という場所は、その人の代だけで使用するものではなく、未来永劫、長きにわたって後世に受け継いでいくものだけに、自宅からの距離という問題だけに限定した墓地選びをされるのではなく、あらゆる観点から選んでいただくことが重要かと思います。